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クラウド時代のメモ術

すでに世の中にはデジタルメモのためのツールやサービス、その利用方法などを紹介した記事が溢れているが、あまりにも間違った情報が多いと感じられるのでいまさらながらデジタルメモの手法について書いてみることにした。

間違った情報というのはちょっと恣意的な表現で、正しくはユーザーの立場よりも提供企業の立場に近い情報が多いということだ。利害関係が一致する部分ではいいが、利益相反する場合、このような情報を参考にするとユーザーにとって不利益となる。

大切なのは永続性と汎用性

メモというのは備忘録だ。つまり忘れてしまった時に備えて記録しておくものなので、将来忘れてしまった時に取り出せなくては意味がない。道具を使うなら、壊れても修理出来たり、代わりのものが確保できることが大切だし、オンラインサービスの場合もずっと続いてくれるのが望ましい。

とはいえ、企業が未来永劫続くとは限らない。企業が存続しても利用しているサービスの収益が悪化してサービスを終了するかもしれない。そうなった時でもメモを失わないためには、汎用性の高いデータを保存しておくことだ。専用形式ではなくプレーンテキストや、画像ならJPEGなど広く普及している形式なら将来にわたって見ることができる可能性が高いし、他のファイル形式が普及したとしても変換手段が確保される可能性が高い。

Evernote が流行し始めた頃、少し使ってみてこれはまずいと思って利用をやめた。何が問題かというと、データを貯めこむことはできても取り出すことはできない。一つ一つのデータはコピーしていけばいいが、大量のデータを貯めこんでしまったあとで取り出そうとすると貯めこんだ時以上の手間がかかる。

永続性を確保するために

永続性を確保するためには、手元にデータを置いておくことだ。タイトルに「クラウド時代の」と入っているように、ここではデータをクラウドに置いてどこからでも見れるようにするという手法を書いていくのだが、クラウドにデータを保存すると同時に、ローカルにもデータの完全なコピーを置いておくべきだ。そうすれば利用しているサービスが提供を終了しても、突発的なトラブルで利用できなくなっても、ローカルのデータにアクセスできる。

クラウドストレージには 2 種類ある

Dropbox に代表されるクラウドストレージにデータを保存する場合、 Dropbox のようにクライアントアプリを利用してローカルにコピーを置いて同期する方式と、クライアントアプリはファイル一覧だけを取得して、データは必要になった時点でダウンロードする形式がある。前者の場合は問題ないが、後者の場合はインターネット接続が絶たれたり、サービスが利用できなくなった場合はデータにアクセスできなくなる。

例えば、 Google Drive は一般的なファイルはクライアントアプリをインストールすればローカルにコピーを置くが、 Google ドキュメント形式のファイルだけはローカルにはリンクだけがあってファイルを開くとブラウザのドキュメント編集画面に移動する。

Microsoft の One Drive は以前はローカルにコピーを置くかどうか選択できていたが、今は選択肢がない。 Microsoft は現在方針が一貫していなくて迷走しているので今後どのような扱いになるか先行きは不透明だ。

汎用性を確保するために

汎用性を確保するためには、とにかく普及しているファイル形式を利用することだ。ここではメモの保存について書いているので、基本は文字データだ。文字データはプレーンテキストで保存するのが望ましい。日本語の場合は文字コードの問題があったりしてプレーンテキストでも完全とは言えないが、それでも Unicode の普及で UTF–8 形式で保存しておけばほとんどの場合問題ない。 オンラインサービスもテキスト編集環境も、できるだけ汎用性の高いものがいい。 Windows や Mac だけでなく、 Linux にも対応して欲しいし、モバイルも iOS と Android の両方に対応していることが望ましい。

Markdown 記法

文字データはプレーンテキストで保存するのがいいと書いたが、数行のメモならともかく、長文のメモになると見出しや箇条書きなどで体裁を整えたほうが見やすい。そんな時に使いたいのが Markdown 記法だ。 Markdown は基本的にはプレーンテキストだが、行頭に # と半角空白を置くとその行は見出し行になり、 - や + と半角空白で箇条書きとなる。また、URLを<>で囲むとリンクとなる。章の区切りは空行を入れるだけだ。

Markdown は対応エディタで表示すると見出しや箇条書きが体裁を整えた形で表示されるが、そのままテキストファイルとして表示しても違和感がない。 Markdown のことを全く知らない人に単なるテキストファイルとして渡しても、書いてある内容を理解するための障害にはならないだろう。

Markdown 記法には他にも体裁を整えるための記法があるが、あまり凝ったことをすると Markdown 非対応の環境で見た時に見づらくなるので、上に紹介した3つの機能のみを使うのがいいだろう。

具体的なメモ環境の紹介

ここまで進んだところで、私が実際にメモを保存している環境を紹介しよう。まず使っている機器だが、デスクトップ(ノート) PC は Linux 、モバイルは iPhone と Android タブレットだ。仕事で Windows PC も使うが、これはどちらかというと一時アクセスだ。モバイルが iOS と Android のどちらかに統一していないのは、どちらかに偏らず両方使いたいからだ。

こういった環境下で、 Dropbox にデータを保存している。メモの整理にはフォルダ構造をそのまま使って、プレーンテキストを保存している。 Markdown ファイルは拡張子が .md だが、 Markdown 記法を使っても拡張子は .txt のままでもいいし、それでも Markdown として処理してくれるエディタは多い。画像データの場合は、 JPEG ファイルだ。

PC 環境ではエディタは何でもいい。プレーンテキストなので、こだわらなければ OS 標準のエディタでも問題ない。とはいえ、 Markdown 記法を使う以上、 Markdown 対応エディタのほうが便利だ。私は OS を問わず対応している Atom を使っている。

モバイルでは Dropbox アプリさえあれば外出先でデータを閲覧できる。インターネット接続は必要だが、インターネット接続環境が確保できない場合でも表示したいファイルはあらかじめモバイルに保存しておくこともできる。

Android 版 Dropbox アプリはテキストエディタを内蔵しているので、ファイル拡張子を .md ではなく .txt にしておけば Dropbox アプリ単体でメモを編集できるし、新規作成もできる。

iOS 版 Dropbox アプリにはファイル編集機能はないので、外部のエディタを使うことになる。 Markdwon 対応なら iA Writer が便利だし、無料の Writebox も使える。

実はこの文章も、 Atom で作成して Dropboxに 保存、 iA Writer で推敲して Medium に投稿という手順をとっている(もともとは Medium に投稿した文章を GitHub に登録し直している)。

ここで使っているサービスやツールを個別に紹介していう。

Dropbox

言わずと知れたクラウドストレージの代表格だが、他社アプリとの連携という点ではいまだに他の追随を許さない。 Linux 対応という点でも他のサービスを突き放している。以前ほど飛び抜けて魅力的というわけではなくなったので、ローカルにコピーを置いておきたくないバックアップなどの用途は他のサービスを使っているが、メモに関しては他社アプリと連携する限り Dropbox 以外は使えない。

Atom

GitHub の作っているエディタだけに Git と Markdown との相性は抜群だ。もともとプログラミング用のエディタだが、フォルダ構造に分類したメモを参照、編集するという使い方とも相性がいい。実は Dropbox だけでなく Git も使っているのだが、これはまた別の機会に。

iA Writer

iOS / Mac / Android に対応した Markdown エディタだ。基本的に Dropboxと 連携して Dropbox 内のファイルを編集するのだが、 iOS / Mac 版 は iCloud に、 Android 版は Google Drive とローカルストレージにも対応している。 iOS 版は有料、 Android 版は無料なのだが、なるほどと思えるくらい iOS 版のほうが魅力的だ。

Writebox

iOS とブラウザに対応したエディタだ。 Chrome 用には専用アプリがあるが、 Chrome でなくてもモダンブラウザなら利用できる。 iOS 版は Markdown に対応しているが、 Web 版は Markdown には対応していない。

Writebox は Dropbox と Google Drive と連携してファイルを参照、編集できる。複雑なことはできないがメモを参照したり編集したりするだけなら問題ないし、ブラウザ対応ということは OS を問わないし、インストールも不要ということで手軽に使える。

おわりに

ことさらに汎用性と永続性を強調するのは、企業は汎用性をなくして自社サービスに囲い込みたいものだし、収益が低下したらさっさとやめてしまいたいからだ。

ユーザーとしてはいつでも他社サービスに乗り換えできるようにしておきたいし、使いたいと思っている間はずっと同じものを使い続けたいものだ。